タッチの技法

簡単なルールで、少しだけ広がる世界。

タッチの技法とは

タッチに技術なんていりません。なぜなら、タッチとは本当に文字通り誰もがおこなっている営みだからです。そもそも今この瞬間にも、私たちのからだは何らかのものと必ずタッチしているはずなのです。

とはいえ、いろいろなタッチを曲がりなりにも整理して、「技法」というわざとらしい名前を付けてやれば、よりタッチが楽しくなったり、タッチの幅が広がったりするかもしれません。

そこで、今までのタッチのなかから特徴的なものを取り出して、名前を付けてみることにしました。特にこれをシリーズ化するつもりはないですし、体系化する予定もないので、断片的なのはご容赦ください。見ての通り、名前だけは大げさに付けています。そのため、わかりにくかったり不適切だったり英語が間違っているかと思います。よい名称があればこっそりご教示いただけると幸いです。内容はどうってことないのですぐ読めます。

相手と身近になる

ハンドシェイク (handshake) ― 手のあるものとは握手する

手があるものとは、どんなものとでも仲良くなれる可能性があります。ぜひ握手を試みてください。ただし、仲良くなれたかどうかはあくまでタッチした人の主観です。動物とは仲良くなれないかもしれません。

足やしっぽなど、手ではないものと握手することも可能です。仲良くなる必要も全然ありませんので、工夫しだいでいろいろ遊べるでしょう。

インプリンティング (imprinting) ― 自分の手に刻みつける

相手に手を強く押し付けて、自分の手に型をつけます。親指の付け根あたりがいいでしょう。表面が硬く、凹凸模様や刻印のあるときに使えることがあります。タッチの記憶を、自分自身の手に直接刻み付けるような感覚を抱くかもしれません。

なお言うまでもないことですが、塗りたてのコンクリートなどに自分の手形を刻印してはいけません。あくまでも刻印されるのは自分の手のほうですし、しかも物理的にはすぐに消えてしまう性質のものです。

パワータッチ (power touch) ― 全力でも動かない

前述のものに増して、まさに力任せのタッチです。電柱・巨石・巨大建築物など、人力ではびくともしない相手を、全力でとまではいいませんが押してみましょう。この力比べは、確実に負けるゲームです。やらなくてもわかりきっていることですが、それでもやってみるのとやってみないのとでは、相手との距離感がわずかですが変わってくるはずです。

なお、ひょっとしたら動くかも、というものを力で押すのは重大な被害を与えるだけでなく命にかかわるので、明らかに負ける戦い以外は絶対にやってはいけません。

ミミクリー (mimicry) ― 何かのまねをする

擬態のことです。例えば、木材に釘が打ちつけてあるときに、金槌になったつもりになって釘を叩いてみたり(ごく軽く叩くふりをすれば十分です)、あるいは物干し竿にハンガーがぶら下がっているのを見て、手でフックの形を作って自分もぶら下がるふりをするなどです。相手が普段何かと接触している場合、それを模倣して自分がまさに「相手」になってみると、今までより相手のことを少しだけ深く理解できるかもしれません。

相手のかたちに合わせる

スイッチオン (push-on switch) ― 出っ張りがあると押したくなる

出っ張りのある相手を、ボタンやスイッチに見立てて押してみます。スイッチが作動して周りにある何かが動き出すのではと想像すると、なかなか楽しいかもしれません。

ところで、世の中には本物のスイッチもたくさんありますが、非常ボタンなど通常は決して押してはいけないものも多いです。残念ながらこれらは、押したふりだけして我慢するよりありません。

グリッサンド (glissando) ― 繰り返すタタタタ

同じく柵など、短い間隔で同一構造が反復しているような相手に使えます。ピアノの鍵盤上で指を滑らせる奏法と同じです。等間隔で突出部から与えられるパルス感が心地よいかもしれません。痛くならない程度に。

フィンガーコーミング (finger combing) ― 指でくしを作る

手を櫛のようにして、平行に移動させます。柵など、縦長(横長)の隙間が連続しているときにどうぞ。これは後で述べる、パストレーシングの特殊例でもあります。また、前述のグリッサンドと併用できることもあります。隙間に沿って動くか、隙間を直角に横切るかの違いです。

フレミングタッチ (Fleming touch) ― 立体の角に触れる

角のある多面体に触れるときなどに使います。親指・人差し指・中指をフレミング左手の法則のような形にして、頂点から出る三辺を三本の指と合わせます。このとき立体の頂点は、親指と人差し指の間にある肉の柔らかい部分に触れることになります。

学校で習う指の形では三辺が互いに直角ですが、タッチの場合は特にこだわることはないでしょう。しかし、ふだん直交座標にもっとも慣れ親しんでいる身としては、やはり角が直角であるほうが喜びも大きく、座標原点を自分で定義したときに感じる、無限の空間を手の内に収めたような感触を覚えることでしょう。

デカルトタッチ (Cartesian touch) ― 原点を定める

さきほどのフレミングタッチの最後に、座標の原点という話が出てきました。世の中には、原点とするにふさわしそうな箇所がいろいろあります。四角形の物体の角や、測量の基準点などです。そこを勝手に原点とみなし、あらためて対象やその周りを見渡してみましょう。自分がその位置に立っているというつもりになるとよいかもしれません。

さわりかたとしては、三次元的なものに対しては、フレミングタッチそのものとなるでしょう。二次元的なものが相手の場合は、そこが全体の中心になる思われるなら、両手の指で十字を作って原点に置いてみましょう。原点が全体の左下端になる場合(負の値を取らないグラフをイメージしてください)は、親指と人差し指でL字型を作って触れるとよいと思います。

パストレーシング (path tracing) ― 線をたどる

さきほどのデカルトタッチの説明で、三次元と二次元という言葉が出てきました。そう、図工や美術の作品に立体と平面があるように、タッチにも立体的なタッチと平面的なタッチというものがあるのです。

これらのことから、一次元のタッチというものの存在が容易に予測できます。予測といっても何のことはない、手元に線状のものが続いていると何となくそれを指でたどりたくなってしまうという、私たち人間の習性をそのまま実践するだけのことです。

線は一本道のこともあれば、複数に枝分かれしていることもあります。枝分かれしていれば好きなルートを選ぶ楽しみもあるでしょう。格子模様が続いている場合などは、ほとんど無限の経路の組み合わせが可能ですね。また、らせんなど特徴的なラインのかたちを取っている場合は、スパイラルタッチとかいろいろ別名を付けられるかもしれません。

さて、三次元から一次元まで連想を進めましたが、さらに押し進めて、ゼロ次元のタッチというのはいったいどんなスタイルになるのでしょうか。点があると指で押したくなる。それはすでに述べた、スイッチオンにほかなりません。

リングタッチ (ring touch / Austin touch / catenane touch) ― 環でつながる

リング状・ドーナツ状のものがあるときに、親指と人差し指などで環をつくり、相手とチェーン状につながるようにします。そもそもどんなものでもタッチすれば自分とつながったことになりますが、この場合は物理的には接触していないのにつながったことになるという、不思議な感覚を得ることができます。

相手と直接触れていないのは納得いかないという人は、別途、通常のタッチを行えばいいでしょう。ただ実際問題として、手の位置が定まらなかったり揺れるなどして完全に中空を保つことは難しく、いつの間にか触れてしまっている場合が多いと思います。

人工物でこのような構造のものを調べてみると、ラジオ送信所で使われるオースチントランスや、分子構造でカテナンというのがあるようです。そこで別名オースチンタッチとかカテナンタッチと呼びたいところですが、いくらなんでもわかりにくいですね。でも個人的には、多少わかりにくくてもカッコいい名前のほうが好みです。

相手に耳を傾ける

パーカッショナイズ (percussionization / instrumentization) ― 叩けばなんでも打楽器になる

ある程度の硬さと大きさがある限り、どんなものでも叩けば打楽器になります。また、振ったりこすったりすることで音が出るものや、弦楽器となるものもあります。単純にリズムを刻むなどして遊べますし、普段は無言にみえる相手の声を聞いてみるという高度な使い方もできるかと思います。

まだまだあるかな

私はアイデア豊富な人ではありませんので、あまり多くは思いつきませんでしたが、実際にさわっているうちに出てきたり、あるいは何の脈絡もなく突然出てくることもあると思います。大げさな名前などなくても、「まわす」「なでる」「もむ」など、簡単な動詞で分類できますしね。あるいはいっそ変わった例として、万物にツボが宿るという信念のもと、あらゆるもののツボを押さえてみるのはどうでしょう。(「らんま1/2」の爆砕点穴みたいなものです。)

私もブログを続けているうちに新しいものに気づいたら、そのときはここに追加するかもしれません。ただ個人的には話を広げるのは好みでないので、ぼちぼちとやっていきます。最後に繰り返しになりますが、タッチに技法なんてありません。ただ単に触れてさえいれば、あとはオマケみたいなもんだと思います。

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