詩 瞬間の一点(1994.04.28) この瞬間、私は未来を掴んでいる 満たされた瞬間に人は、それを忘れてしまう 自分が満たされたという現実を 人は恒に己を欠陥品だと信じこみ それを埋めようと努力する 荒涼とした沙漠を緑で満たそうとするように それは違ってはいないだろうか 在るということは一つの完成品なのだと言えないだろうか 自分自身の幻想が却って自分を損ねてはいないだろうか 自分の姿は自分の心のカメラに正しく映っているだろうか ほんとうは素晴らしい緑の草原を 生命が息づく森を 枯木ひとつない荒野だと思い込んではいないだろうか そう自分が思った途端に それは現実になる可能性をもってしまうのに いま、自分の前には何があるだろう それは、手つかずの未来 耕されることを夢にみる、地の果てまでも続く土地 目のまえにひらけた光景に呆然とする前に 最初の一鍬を自分の手で入れてみればいい 大地のあたたかさが、自分の可能性が、わかるから すべてがこの一点からはじまる 自分という名の、小さな点 ちっぽけで、巨大で、 様々な可能性を秘めて輝く自分の夢の出発点 はじまりはいつも自分 羽撃いていく鷹も鴎も この瞬間、自分という一点からはじまる 一瞬の永遠(1991.07.14) ほんの五分前のことを憶い出して下さい あなたは何をしていましたか? 起きていましたか? お布団の中でしたか? 笑っていましたか? 目蓋を赤くしてはいませんでしたか? 友達と語り合っていましたか? 恋人と一緒じゃありませんでしたか? すれ違うほんの一時を 大切にして下さい もう会えない見知らぬ恋人のために また逢えるかも知れない行きずりの親友のために ほんの一瞬 僅かな一時 目を閉じてまわりを見て下さい 何か違ったものが 見つかりはしないでしょうか? 何か変わったことが 判りはしないでしょうか? あなたは今誰かを愛していらっしゃるでしょうか? それとも誰かを憎んでいらっしゃるでしょうか? 絶え間ない時の訪れさえ あなたの心を洗い流すことは出来ないでしょうか? あなたの想いを清めることは不可能でしょうか? 耳を澄ましてじっと聴いていて下さい あなたは五分前のあなたを憶えていらっしゃいますか? 一日前 一週間前 一年前 五年前 十年前 その時もあなたはそうしていらっしゃったのでしょうか? ―――我が鮑友に捧ぐ 生きのなやみ(1997.05.06) 何れはやがて雨も止もう 何れはやがて傷も乾こう 乾かぬなら乾かぬままに 癒えぬ傷なら癒えぬままに 棄ておくが良い 私は嘆きはせぬ 私は恨みはせぬ ただこの久遠のうてなに 私を飾ったもの以外には 戻れない夜に(1998.01.17) 湖をみて ―――湖をみて あなたをおもう ―――あなたをおもう もう二度とかえれない道を あなたのおもいでとともにふりかえりながら 東の浜からあなたは湖を見遣り 西の岸からわたしは湖をみつめる 同じ湖だったなら みつめあえてたのに あなたは西にいて 私は東に そしていつまでも背中あわせに 山をみて ―――山をみて あなたをおもう ―――あなたをおもう いつかふたりで歩いた道を いつかふたりで愛したまちを 東の此方から私は山をながめ 西の彼方からあなたは山をみつめる 山は違っても 心に傷が残っても あなたを愛して良かったと思う日が来るだろうか? あなたに会えた事を悔やんだ夜があっただろうか? 懐かしく夢にみながら 刺(1997.10.15) 溜息の数ほど あなたを愛した夜が 今はただ心を苛んでいくだけでも 手元に残った手紙の束が あなたを抱いた夜に 連れ戻すかも知れないけど 想い出にかわるまで 痛みなら痛みのまま 絡みつく茨ごと 抱きしめている ―――今も… カリメロとプリシラ(1996.06.18) 稚(おさな)い心を二人で寄せ合って まだ殻がついたままの雛のような 恋を育ててる 手を携えて一歩一歩昇っていく階(きざはし) 昇りつめた瞬間 とっている手は違うかも知れないけど たとえこの恋を失う朝が来ても 夜を語り合ったその笑顔は忘れない 捧げる想い(1995.06.17) 合わせた瞳の奥の優しさを愛してる ぞんざいな言葉の陰に隠れた思いやりが いつでもこの何かに渇いた胸を癒してくれる いつでも守ってくれた母鳥のようなおまえを 守りたいと思ったとき 誰よりも愛しく思っていたことに気がついた おそるおそる重ねた唇は 幼い頃のあの日のままで 指の触れた柔らかな頬に 何度でも口付けをしてしまいたくなる さらさらと流れていく真っすぐな黒髪が まるでおまえの気性そのもののようで 指に絡めても逃げていく髪はおまえ自身のようだね どこを見つめてもかまわないから 最後は俺の腕の中に帰ってこいよ いつでもおまえを守れる場所に俺はいるから 危なくなったらいつだっておまえを助けにいってやるから WORDS(1992.05.06) 肩が震えてくるような切ない雨に 全身を曝して あの時の言葉を捜している いつまでも想いは変わらぬままに 突然訪れた哀しみのように 甘い約束だった筈の言葉は 私の自由を失くしてしまった 想いは決して変わらないのに 縛りつけないで 私の心を あなたが居なくては 生きていけなくなるから あの時の甘い約束 私を縛りつける言葉を捜している 想いはまだ 変わらないままに 瞳がみつめてる―――夢を叶えるための休息に―――(1995.08.29) 大切にしていた硝子細工が 目の前で落ちていくのに 伸ばした手が届かない 砕けた破片をただ見つめながら ―――ボクハ ナニヲ シテル? ぼくはどこにいる? 心を失ったまま ぼくの体だけが動いてる ―――ボクハ ドコニ イル? 戻れ 苦しみと哀しみがあっても 辛いことがあっても きっとそれを乗り越えて幸せが待ってる あのひとは今でもぼくを見つめている いつでもぼくを見つめている だからぼくは幸せになる 幸せになれる 少し羽を休めてみようか どんなに強い鷹だって 飛び続けることは出来はしない 高く舞い上がるために… 抱え込んだ膝が伸びて 涙の乾いた顔を上げたら 走っていこう あのひとの元へ ―――ボクハ ココニ イル。 眠っているあなたに…(1993.03.07) 傷口を嘗めて立ち尽くしているより 痛みを堪えて起ち上がって もう一度だけでいいから あなたの大切なもののために戦って下さい あなた自身のために戦って下さい あなたの可能性を見限ってしまわないで あなた自身を自分から否定してしまわないで 自分を強いと言える人なんていないはず 弱さを知っているあなたは強いと思うから その彼方にどこまでも続く道がのびている 遥かな昔と遠い未来を結ぶ道が そして…… 太陽は孤独に耐えて輝き続け 月は孤独を生きて光り続ける いま、あなたは無限の可能性の海に居る ―――木村艸丘先生へ 祝福−blessing−(2004.12クリスマス・パレード参加作品) 君が降ってくる 白くやさしく たどり着いた瞬間に儚く消えていく君は まるで地上の穢れを嫌うかのように あなたが降りてくる 私を包み込むように 大地を包み込み白銀に染めて まるでひとときの安らぎを与えるかのように ひとひらの手紙は それぞれの想いを託して 長い道のりを越える 白い雪が舞い散る 踊る二人に降り注ぐ 祝福に満ちたライスシャワーのように Love Letter(2004.12) 雪に書いたラヴレターだよと 君が笑う まるではしゃぐ犬みたいに 追いかける僕の腕をぎりぎりですり抜けて 寒さに震えて立ちすくむ僕を 猫みたいだねって笑うけど 見惚れてたんだよって本当のことを言ったら 君はなんていうかな 今はもう遠い記憶 白い闇と蒼い氷の彼方で 永遠にリサイクルされ続ける僕ら 真っ白いさらさらのお布団で 春までゆっくりおやすみしよう 目が醒めたら一緒に何をしようか 旅立ち(1997) 幼い残酷さがたとえあなたを傷つけても もう戻らない もう振り返らない それを知ってしまったから それを見付けてしまったから どこまでも続く青い空に 心の中にプールしてた涙を吐き出そう もう拘りは要らない 自分の足があるなら ひとつ一つ 掌の中で温めていても 夢は孵化しない 羽は生えない 大切に抱きしめているだけじゃ 愛だって伝わらない 台風一過 満天の星 時には紫外線をたっぷり浴びて 雑草になろう 地についた足で夢を追いかけられるように