ディナーショウ@赤坂プリンスホテル「LOUDNESS」2004/8/13  「悪魔の夜のディナーショウ」の連絡が来たのは、前回のLive Depotの少し前だったと記憶している。申込をしてくれたのは勿論R君。そのまま赤プリに宿泊出来るプランもあったので、てっきり宿泊すると思い込んでいたのはご愛嬌というものである。 「いや、だって別に帰れるし」  あっさりとそう言ったR君は確かに正しい。余分なお金も掛からないし(笑)  当日、私は久しぶりに一日お休みを取った。お盆だから人も少ないし、休みやすかったこともある。R君はと訊くと、午前中に用事を済ませて午後から行く予定だと言ったので、久しぶりにゆっくり時間を掛けておめかしすることにした。HRのLiveだとどうしても黒系Tシャツにジーンズのパターンが多い。私はここ数年殆どジーンズを穿いておらず、ライブでも違う服装ではあるが、華美とは言えない。ディナーショウだったら多少華やかな恰好をしてもおかしくないだろうと思ったのである。その数日前、高校時代の友人が帰省していることを友達からの連絡で知った。そういえばもう数年会っていない。ランチでもという誘いを断ることはなかった。  全員集合は出来なかったが、久しぶりに会う友人達と交わすおしゃべりは楽しかった。暫く会っていなかった間の近況情報などを交換し、新たな連絡先の確認をする。つい話がはずんで、三々五々に別れたのは予定より三十分程遅くなってからだった。  今日は久々に電車に乗る前からR君と一緒である。予定が少し押してしまったが、今回は途中で軽食をつまむ予定がなかったからあまり余分な時間を必要としなかった。あとは落雷や人身事故がなければ電車は普通に動く筈である。赤坂見附についたのは、入場開始時間ぎりぎりくらいだった。  赤坂プリンスホテル、通称赤プリ。ディナーショウは今年に限らず開催しているようだ。ただし、LOUDNESSははじめてらしい。十数年前の記者会見はここを使ったみたいね、とR君が教えてくれた。いまだに破られてないだろう、アメリカのビルボードの記録の時の記者会見である。  落ち着いた色調の壁紙を見ながら階上へとエスカレータで上った。普段はHR全盛期の頃のTシャツを着ていたような人も、イケイケ系の服装をお召しになっておられるお姉様方も、華やかで軽やかなドレスが多かった。なかなか楽しいシチュエーションである。  入口に到着すると、既に入場が始まっていた。今回はテーブルがあるので、それでも落ち着いていられる。入口を入って傍のブースに物販コーナーがあったのでR君と覗いてみると、なんとR君が欲しがっていたBlood Circusのビデオがあった。LOUDNESSのベース山下昌良氏とドラム樋口宗孝氏が参加しているバンドで、現在はほぼ休止状態である。実は昨年のライブの時に販売していたという情報があったのだが、遠方から来ていた連れがいたため、ライブ後に物販を覗く時間が取れず、そのまま帰ったところ、後からそういうことだったと聞かされたことがある。今回はそのテープが販売していて、しかも今日だけ三百円安くなると聞いてR君は躊躇わずに物販のお姉さんに言った。 「二本下さい」  この決断力が、R君の魅力の最大のポイントと言えるかも知れない(笑)  会場へ入ると、小さなテーブルがいくつも並んでいた。一人から四人まで、その席によってさまざまである。どうやら、一組毎にテーブルを別けているらしい。「贅沢(^^;)」と思ったのは私だけではないだろう(笑)  セルフサービス形式で、外縁に食事メニューが並んでいる。一歩間違えればテキヤのおじちゃんのような明るい人から、シェフのような紳士、可愛いお姉さんまで赤プリスタッフの皆様は様々である。R君と私は交替で荷物番をしながら、美味しそうなものを見つけてはちょっとずつテーブルに持ち帰ることにした。使い終わった食器は会場を回る赤プリスタッフが静かに片付けておいてくれる。食糧確保(笑)のついでにステージのセットの写真をついでにとりつつ、一通り食事メニューを平らげ、デザートと食後の飲物を確保すると、ライブ開始時間が近づいていた。デザートのアイスクリーム担当のおじちゃまは「またおいで」と言ってくれたが、結局もう一度行けずに終ったのは、流石にお腹が一杯だったからである。食事メニューはR君が私より若干ハイペースだったが、デザートとなれば私に敵うものはいない(本当かよ)。多分デザートの半分以上は私が平らげたはずである。紅茶と珈琲を確保して落ち着いた時間を過ごしていたら、照明が落ちた。ライブの開始である。  普段は席があるホールでのライブでも、着席したまま聴くことはない。スタンディングさながらに拳を振り上げて踊るのが、HRライブの正しいみかたである。しかし、こんなチャンスは滅多にあるものではない。紅茶の湯気越しに生のあのドラムが味わえるなんて、そうそうあっていいことではないのだ。一部客席から離脱し、中央前に寄った人々が居た。中には新曲「Crazy Samurai」に合わせたものか、チョンマゲ型の鬘を被り、玩具の刀を振り回している輩もいる。周りに気を遣ってか、多少腰を落として歩くさまがまるで老人のようにふらついていた。そのままステージの直前に移動しようとしていたようだが、ステージ傍のスタッフに止められたらしく、大人しく引き下がっていく姿が見えた。ふと気付くと、後ろでも席を立って踊っている人がいる。客席中央で立っては周りの人の迷惑になるからと後ろへ移動した人もいたようだ。殊勝なことである。  曲数自体は寧ろいつものライブより少なく感じた。十曲ちょっとくらいだろうか。ステージ全体が見渡せる位置でゆっくりと着席するようなライブは久しぶりだし、ステージ上のメンバーの顔が良く見えないのも珍しいことである。いろんな意味で新鮮さを感じながら、ゆったりとした時間を楽しんだ。いつもは目の前で拳を振り上げているから余裕がないが、こういうのも楽しいものである(笑) 「きっとこんな轟音のライブは今までなかったろうねぇ」  R君がそう呟いた。そう、赤プリでは毎年夏のシーズンにこういうライブを行っているようなのである。縁がないとこういうものはつくづく判らないから面白い(笑) でもその中にLOUDNESSより轟音でライブをするような人々がいるとはとても思えなかった。FM TOKYOの会場でさえ「○階からも『音の振動が伝わってきました』という報告(別名:苦情)が寄せられた程である。地下はもちろんだが地上階、しかも数フロア離れたところからだったので、前代未聞だったようだ。大江千里氏はにこやかに言っていたのだが、モトの発言はきっと棘に満ちたものだったに違いない。  ライブが終ってから、記念にもう一枚セットの写真を撮ろうとしてスタッフに許可を求めたら、断られた。無断で撮っている人もいるのだが、敢えて逆らわずに引き下がることにしたのは、「写真は必ず許可を求めてから」という自分の主義に反するからである。その話をR君にすると、「それを許すといつまでも会場に居座られる可能性があるし、残られていると後片付けが遅れるからじゃない?」とあっさりと言われてしまった。お腹も満たしたしライブも終ったしという訳でR君と席を立つと、にこやかに赤プリスタッフの皆様が微笑んで送り出してくれる。こちらも自然にこやかな笑顔になった。 「満喫しました。ありがとうございました」  心行くまで楽しんだ夏の夜は、こうして終ったのである。