民主党・小沢代表の所信表明のような代表質問(要旨) 2008年10月1日  ■直ちに総選挙を  まず、総理大臣のあり方について。1年足らずの間に2人続けて政権を投げ出した自民党の総裁が、総選挙を経ないで三度(みたび)、ここにこうして総理の座に座っておられるのは信じがたい光景だ。与党が政権を担う能力を失ったならば、直ちに野党に政権を渡し、総選挙を行うのが議会制民主主義の筋道だ。総理は「憲政の常道」をいかがお考えか。  総理の所信表明演説とは、総理自身の政治理念とそれに基づくビジョン、政策を明らかにするものと理解していたが、麻生総理の演説には明白な理念も具体的なビジョンや政策も全く示されていない。唯一、具体的なものは民主党への誹謗(ひぼう)中傷だけだ。総理が逆に野党にいろいろと質問するのも、私の39年間の議員生活において初めての経験。しかし、せっかくのご質問なので、私の所信を申し上げ、総理への答弁としたい。  ■争点は「仕組み」  近く行われるだろう総選挙は、国民に今後も自公政権を続けるのか、民主党を中心とする政権に代えるのか、政権を選択することで国民生活の「仕組み」を選んでいただく極めて重要な機会だ。  すなわち官僚に任せっ切りで官僚の言うがままに莫大(ばくだい)な「税金のムダづかい」を続ける自民党政治の旧来の仕組みを継続させるのか。それとも、大ナタを振るい、ムダづかいを徹底的になくして国民生活を立て直すことに税金を振り向ける民主党政治の新しい仕組みに転換するのか。それを主権者たる国民自身に決めていただく選挙だ。  なぜいま、「仕組み」の選択なのか。私はこの2年半、北海道から沖縄まで移動距離にして18万キロ余りを行脚し、各地域の皆さんの生活をこの目で見てお話を直接伺ってきた。日本はすでに中国、ロシア、米国に次いで、主要国では下から4番目の「格差大国」になっていることを実感した。ほとんどの地域で、お年寄りも若者も抜け出しようのないジレンマと将来不安を抱えている。小泉政権以来の市場万能と弱肉強食の政治で生じた格差と不公正を放置すれば、日本の経済・社会は根底から崩れ、国民生活が崩壊してしまう。  だからこそ今、日本を変えなければならない。坂道を転げ落ちる前のラストチャンスといっても過言ではない。それは「格差大国」を生み出した自公政権に終止符を打ち、政治を変えることでしか実現することができない。  では、どう変えるのか。私たちの掲げる「国民の生活が第一。」の理念に基づいて、政治・行政の仕組みそのものをつくり替えるのだ。  明治以来の官僚を中心とする統治機構を根本的に改革し、国民自身が政治・行政を行うようにする。同時に国民生活を守るセーフティーネットをきめ細かくつくり上げる。  具体的には、政治・行政と国民生活の新しい仕組みをつくることで「格差がなく公正で、ともに生きていける社会」を築く。その基本政策案はすでに発表しているので、その柱だけを申し上げる。  つまり、年金・医療・介護、子育て・教育、雇用、農林漁業・中小企業、生活コストの五つの分野でセーフティーネットをつくるとともに、財政構造の転換、国民主導政治の実現、そして真の地方分権により、日本の統治機構を根本的に改革し、その上に立って日本を地球に貢献する国にするというビジョンだ。  こうした仕組みをつくることで「新しい国民生活」を切り開き、その結果として、本当の内需拡大が進み、地域経済の再生から日本経済を立て直すことができる。この新しい仕組みづくりの核心は「税金のムダづかい」を際限なく再生産している、官僚任せの財政運営構造を大転換して、国の予算の「総組み替え」を断行することだ。  税金は国民のもので、国民のために使われなければならない。世界に例を見ない、日本の財政運営構造こそが異常。それを放置したまま、「財源が足りない」「財源の裏付けがない」などと言うのは「税金のムダづかい」をしてきた側の論理に過ぎない。  ■税金の使い方を変える 国民の生活にとって何が大事か、私たちの新政権の目標である「新しい国民生活をつくる」ために何が必要かという基準で、予算の優先順位を決めることにより、私たちの政策を実現するのに必要な財源は十分に確保できる。  今こそ、国民の意思に基づき、国民の手で国民のための予算に全面的に組み替える。税金の使い方を変えることが、国民生活を変え、日本を変える要諦(ようてい)だと確信する。  近く行われるであろう総選挙の最大の争点は、ムダづかいを続ける今の税金の使い方を許すのか、それとも民主党を中心とする政権に代え、税金の使い方を根本的に変えるのか、という選択だ。  以上の考え方に基づき、民主党は総選挙のマニフェスト(政権公約)を取りまとめた。この場をお借りして「新しい生活をつくる五つの約束」を中心とするその骨格を国民の皆様に発表したい。  第1の約束は、官僚の天下りと「税金のムダづかい」をなくし、税金を官僚から国民の手に取り戻すことだ。一般会計と特別会計を合わせた国の総予算212兆円を全面的に組み替え、いわゆる「埋蔵金」も活用し、国民生活を立て直すための財源を捻出(ねん・しゅつ)する。国からのひも付き補助金は廃止し、地方に自主財源として一括交付し、特別会計、独立行政法人などは原則廃止する。当面は特別会計の積立金や政府資産の売却なども活用する。  それらにより、09年度には8.4兆円、10年度と11年度はそれぞれ14兆円、12年度には総予算の1割に当たる20.5兆円の新財源を生み出すことができる。税金の使い方を変えることを担保するために、多数の与党議員が政府に入り、政治が役所をコントロールできる制度に改める。  自公政権下で所得の減少と不景気の物価高にあえぐほとんどの国民は、家計のやりくりでもまずはムダを省くことを心がけ、実践している。それと同様のことを国ができないはずはない。できないなどと言うのは、既得権益を死守せんがための屁(へ)理屈に過ぎない。  第2の約束は、年金加入者全員に「年金通帳」を交付し、「消えない年金」「消されない年金」へとシステムを改める。「消えた年金記録」は国の総力を挙げて正しい記録に訂正し、国が責任を持って全額支払う。  また、年齢で国民を差別する後期高齢者医療制度は廃止し、被用者保険と国民健康保険を段階的に統合して将来の一元化を目指す。さらに、医療を機能させるため医師は5割増やし、看護師、介護従事者などの不足を解消する。  第3に、子育ての心配をなくしてみんなに教育のチャンスをつくるため、子ども1人当たり月額2万6千円の「子ども手当」を中学校卒業まで支給。公立高校の授業料を無料化し、私立高校、大学なども学費負担を軽減する。働き方や家庭の実情に応じた多様な保育サービスを支援する。  第4の約束は、雇用の不平等をなくし、まじめに働く人が報われるようにする。具体的にはパートや契約社員を正規社員と均等待遇にすると同時に、2カ月以下の派遣労働は禁止。中小企業を支援しながら、最低賃金の全国平均を時給千円に引き上げていく。  第5の約束として、農林漁業の生活不安をなくし、食と地域を再生する。そのために農業の戸別所得補償制度を創設し、林業と漁業も独自の所得補償制度を検討する。汚染米の全容解明と責任の追及はもちろん、食品安全行政を総点検、一元化して食の安全を確実なものにする。中小企業は法人税率を原則半減することなどで再生させる。  以上のうち、新しい政権の初の予算編成となる第1段階の09年度には、ガソリン税などの暫定税率を廃止し、2.6兆円の減税を実施する。高速道路の無料化、子ども手当の創設、医療改革などは09年度に一部実施したうえ、第2段階の10〜11年度に完全実施。思い切った政策の実行こそ、緊急経済対策としても最も有効だと考える。  ■日米対等な関係  農業の戸別所得補償は09年度に法律を制定し、10年度から一部実施、第3段階の12年度に完全実施する予定だ。さらに、消費税の税収全額を年金財源として最低保障年金を確立する年金改革は、3年かけて新制度の詳細設計、法案化、法律制定を行い、12年度に実施する。  このように3段階に分けて着実に政権公約を実現し、私たちの政権が次に国民の審判を仰ぐ期限である4年後までに、日本の新しい仕組みづくりを完了させる方針だ。  最後に、民主党の外交・安全保障の基本方針を申し上げる。第1の原則は言うまでもなく、日米同盟の維持・発展だ。ただし、同盟とはあくまでも対等の関係であり、米国の言うがままに追随するのでは同盟とは言えない。民主党は米国と対等のパートナーシップを確立し、より強固な日米関係を築く。  第2の原則は韓国、中国をはじめとするアジア・太平洋諸国と、本当の友好・信頼関係を構築する。特に日韓、日中関係の強化は、日本が平和と繁栄を続けていく上で極めて重要だ。  第3の原則は、日本の安全保障は日米同盟を基軸としつつも、最終的には国連の平和維持活動によって担保される。日本国憲法は国連憲章とその理念を共有しており、日米安全保障条約は国連憲章の理念と枠組みに基づいて制定されている。したがって、日米同盟と国連中心主義とは何ら矛盾するものではない。 民主党は以上の3原則に基づいて、日本の平和を守り、主体性ある外交を確立、展開していく。  私には二つの信念がある。第1は政治とは生活であるということ。政治は国民の生活を守るためのものだからだ。  もう一つの理念は、政治とは意志であるということだ。主権者たる国民の皆様が決意をすれば、政治は変えることができる。日本国民は、みんなで力を合わせれば、どんな困難でも必ず乗り越えることができると固く信じている。  その国民の力を最大限に発揮できるようにするのが政治の役割であり、私たち民主党の使命だ。  最後に国会運営について申し上げる。米国のサブプライムローン問題に端を発した金融危機は、世界恐慌に発展しかねない状況だ。当然、我が国でも緊急経済対策と各国との政策協調が必要だが、どんな事態にも対応できるようにするためには、政治・行政・経済の仕組みそのものの大転換を実行しなければならない。国会で十分に議論し、各党の主張を明確にした上で、すみやかに総選挙を実施し、主権者たる国民の審判を仰ぐ必要がある。そして、国民の支持を得た政権が強力なリーダーシップを発揮して、このような危機に対処していくのが憲政の常道だ。